Vol. 05 / 01 わたしとわたしの魂、その距離と関係について | un / bared
2021.11.09 un / bared

Vol. 05 / 01 わたしとわたしの魂、その距離と関係について

Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか
Haruka Shiine しいねはるか

Model : しいねはるか (https://shiineharuka.wixsite.com/home/)
Photography : 工藤ちひろ
Direction & Text : Nozomi Nobody

 下北沢のCCCでコーヒーを飲みながらしばらくあれこれの話しをして、夕方に差し掛かるころわたしたちは結局パスタも注文した。パスタという食べものにわたしは昔からあまり興味を引かれないのだけど、CCCのパスタはおいしくてときどき食べに行く。傾きはじめた陽の差す店内で、わたしたちは魂について話した。正確にははるかさんがそれについて話し、わたしとちーちゃんがそれを聴いていた。「最近なにに興味がありますか」と尋ねたわたしにはるかさんは「最近は魂が気になってる」と答えたのだった。
 はるかさんは魂のことを「元々自分の中にある動かせない部分」「自分が介入し得ない部分」だと言った。

 わたしはこの数年、なるべく自分に自分の好きなようにさせてあげてきて、その中で少しずつ自分を知ってきた。最近はそうして発見した自分のことを重たいなぁと感じるようになっていた。持って生まれた性質や、業、あるいは運命とか使命とか。はるかさんの言葉を借りるなら「魂」のようなもの。自分のそれが、とても重いのだ。もっと軽やかに器用にすいすい泳ぎ回るように生きられたらいいのに、と思う。自分を形成している不器用さ、頑なさ、息苦しさ、熱、孤独。そういういちいちにほとほと疲れてしまうことがある。

 何週間か前の夜、お風呂で髪の毛をわしゃわしゃ洗っていると「わたしは入れ物と中身がちぐはぐなのだな」という想いが言葉になって胸の辺りにふっと浮かんできた。それは、真夜中の湖に一滴の雫が落ちたみたいに、静かな悲しみとともに体内に響いた。自分を受け入れる、ありのままの自分を受け入れる、否定しない、受け入れる、受け、入れるーーーだけどもし、もしも、受け入れたくなかったら?交換することができないとわかっている自分のこの入れ物をだけど、受け入れることを望まなかったら?
 わたしはわたしから出ることができない。選んだわけではない、頼んだわけでもない、勝手に与えられ背負わされた「これ」から逃げることができない。なのにわたしはわたしを持ちきれない。そのことが、苦しい。

 はるかさんの言うように、魂と呼ばれるものが自分でありながらも自分でないのなら、わたしはわたしなのに、そのはずなのに、こんなにも自分が自分自身と切り離されているように感じるのはそのせいなのかもしれない。

 わたしの苦しさは、わたしがわたしでいられない苦しさであり、同時に、わたしがわたしでいる苦しさだった。

 千葉での撮影を終えて、ちーちゃんが運転する車で海岸近くの風情ある定食屋さんに入って、お腹空いたね~と言いながら御座敷の席に座った。ふたりはお刺身の定食、わたしは天丼をそれぞれ注文して、出てきたボリュームたっぷりのお膳に小さな歓声をあげながらもりもり残さず食べた。わたしの胃ははち切れんばかりだった。霧みたいな細い雨がさーっと降っていた。

 わたしは、どうしても自分が自分とちぐはぐだなのだと言った。持って生まれたものを受け入れること、それが自分を受け入れることだと思う、でもどうしてもうまくできないことがある、一方的に与えられているだけで決して自ら望んだわけじゃない、という不満をこぼした。はるかさんは、バンドも文筆も「自意識的には望んでいることじゃない」と言った。そして「でもやらなきゃなんないことってあると思うんだよね。抗ってたこともあるけど、でも自分の役割みたいなのわかっちゃったんだよね。その係になるじゃん、どこにいても。結局やることになるから。これやるんだなってわかる。で、またそこで縁が広がっちゃう。だからわたしはもうやろうって思った」そう言ったのだった。

 本当はわかっている、わかりはじめている。というか、もう何度も「それ」を受け入れる覚悟を決めたつもりでいた。でも、やっぱり重たいなぁ怖いなぁしんどいなぁ嫌だなぁと思う気持ちがときどき隅っこに見え隠れする。だけど一方で、なにか強い力に引っ張られていることを感じている。そしてたぶんそれには抗えないであろうことを知っている。潔くさっさと諦めてしまえたらいいのに、と思う。諦めて、受け入れてしまえたらいいのに。でも、やっぱり、好き好んで「これ」を生きているわけじゃない、「勝手に生きさせやがって」みたいな謎の反骨精神みたいなものがどうしたってわたしには備わっているのだった。
 それも含めて魂なのだろうか。だとしたらなんて面倒くさい魂なのだろう。

 言葉が出てこなくて黙り込んだわたしにはるかさんは「でも抗ってるのんちゃんも素敵だなって思うよ」と言った。優しいひとだなと思った。

 もう少し自分とうまく付き合えるようになったら、もう少し生きることが楽になるんだろうか。鬱々とした想いが募っていたけれど、はるかさんの文章を読んでいたら少しだけ優しい気持ちになれた。振り子みたいに何度も何度も振れては揺れている自分を独りよがりでかっこ悪いなぁと思うけれど、それも自分なのだから仕方がないね。まだまだ先は長いのだし、気長にやろう。そう自分に言い聞かせる。今日は雨。とても雨。

Vol. 05 / 01 わたしとわたしの魂、その距離と関係について
Vol. 05 / 02 自分の声で歌う
Vol. 05 / 03 それぞれのさまざま

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