みちわたるしんたい[7通目]愛すべき食いしんぼう | un / bared
2022.09.09 みちわたるしんたい

みちわたるしんたい[7通目]愛すべき食いしんぼう

Illustration & Text : おざわさよこ

 ずいぶん長いこと文字を打つことができないでいて、それは本当にできなかったのか、それともしなかったのか、自分でもわからないのですが、3月の頭はまだうんと寒かったから、季節をふたつも跨いでお返事を書いています。
 毎日暑いのだけど、今日は窓の外でひぐらしが鳴いているのを聴きました。あっと思って慌ててスマホに録音しようとしましたが、気まぐれに鳴くもんだからとらえることが出来ないまま、そのうちどこかへ行ってしまったようでした。

 7月29日、祖母が亡くなりました。
 その前の週まで京都で個展をしており、搬出にあわせて岐阜に帰って顔を見る予定だったのですが、コロナの感染爆発で断念したところでした。
 容態が急変した夜にわたしはお酒を飲んでしまっていて、ゆーきゃんは不在で、駆けつける方法がないまま、翌朝少し持ち直してから静かに亡くなりました。

 お通夜とお葬式のあいだ、わたしはごはんのことを考えていました。
 祖母は料理は苦手でしたが、本当に食いしんぼうだったので、美味しいものをたくさん一緒に食べました。
 あじろ亭の洋食、高松屋のうどん、松屋の鉄板焼きステーキ、南蛮亭の焼き鳥、岐阜公園の木の芽でんがく、芙蓉のお稲荷さん、吉照庵のお蕎麦、水琴亭の会席、東寿司の握り…。閉まってしまったお店も多いけれど、どの味もすぐに思い出すことができるわたしは、立派に祖母から食いしんぼうを受け継いでいます(この往復書簡をしているのは祖母の影響も大きいのかも)。

 祖父が生きていた頃、祖母は彼の仕事を手伝っていたので、てんやものをとることが多く、仕出しの「かわらや」のうなぎはみんなの大好物でした。
 岐阜には美しい川がいくつも流れているからか、うなぎ屋さんが多い気がするのですが、わが家はどこかへ食べに行くよりも近所のかわらやに焼いて持ってきてもらい、それを家でご飯にのせて食べるのが定番でした。大皿が入る平たく飴色に使い込まれたおかもちが家に入ってくると、香ばしいにおいが漂って、期待と幸福感で胸がいっぱいになります。
 うなぎには関東風と関西風がありますが、蒸さずにバリっと焼き上げて、頭もついてくるかわらやのうなぎは、どちらかというと関西に近そうです。何か違うところがあって名古屋風、という可能性もあるのかも。
 祖父がいた頃は付け合わせに鯉のあらいと肝吸いがついてきて、それも毎度の楽しみでした。酢味噌で食べる鯉が好物の小学生って…と今になって何だかおかしく感じます。

 祖母が施設に入る前に近所を徘徊してしまった時、馴染みのタクシー会社を自分で呼び、財布を持たずに乗り込み、馴染みの肉屋で牛肉を注文し、かわらやでうなぎを注文して帰ってきたそうです(顔見知りばかりだったのでことなきを得ました)。
 亡くなる少し前には、施設で配膳されたどろどろのお粥が美味しくないと言い、粒だったものにかえてもらって、ああ美味しい、と満足気だったそうです。筋金入りの愛すべき食いしんぼう。喪主をつとめたこれまた食いしんぼう直系の母は、告別式でこの話をして、家族葬のこじんまりした会場であたたかな笑いを誘っていました。

 わたしはこの数年はほとんどうなぎを食べないでいるのだけど、祖母はきっとあちらで真っ先に食べているんじゃないかしら、と思います。枕元に大好きな飛騨のどぶろくも置いておいたから、20年ぶりに会う祖父と一緒に、いい気分で、ちょっと照れ合ったりしながら。

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