Vol. 06 / 03 これでしか | un / bared
2023.11.27 un / bared

Vol. 06 / 03 これでしか

Yumi Arai 荒井佑実
Yumi Arai 荒井佑実
Yumi Arai 荒井佑実
Yumi Arai 荒井佑実
Yumi Arai 荒井佑実
Yumi Arai 荒井佑実
Yumi Arai 荒井佑実
Yumi Arai 荒井佑実
Yumi Arai 荒井佑実

Model : 荒井佑実 – アーティスト(https://www.yumiarai.com
Photography : Kalina Leonard – 写真家(https://www.instagram.com/kalinaleonard/
Direction & Text : Nozomi Nobody(https://nozominobody.net

 最近、引越しをした。どこか違う場所、東京ではない土地にしばらく行ってみるのもいいのではないかということをしばらく前から漠然と考えるようになっていて、でも今年はずっと制作をしていたから具体的なことはレコーディングが終わったら考えようとひとまず脇に置いていた。そうしていざ終わってみればもういつでもいまでも動けるな、という心持ちだったので、気に入っていた川沿いの部屋に少しだけ後ろ髪を引かれつつもさっさと決めてしまい、いちばん近しい友人たちにさえほとんど知らせないまま山の上に建つ古い平家にやって来た。長く誰も住んでいなかったその空間を掃除し、直し、整え、だいぶ部屋らしくなって、心地良い自分の場所になった。もうすぐ二ヶ月になる(扉という扉がすべて木とガラスを組み立てただけの古い造りで、風も冷気も通り放題なので来る冬に向けどう備えようかというのが目下の考え事)。

 しばらくは行ったり来たりしながらの生活を試してみようと思っていて、今月は二週間ほど東京に帰っていた。離れていたのはほんの一ヶ月だったのに、東京にいる間わたしはなんとなく落ち着かず気づけば気が立っているようなありさまで、一方でだけど友人たちと会ったりライブがあったり久しぶりにひとりでふらっとレイトショーに出掛けて行ったり、充足した時間を過ごしたこともまた確かで、だからなんだかちぐはぐで、このアンバランスな感覚はいったいなんだろうかと少し困惑したまま帰宅したのだった。

 いまの場所に一、二年暮らしたらまた次の場所に行こうと思っている。それがどこかはまだわからない。先のことは何もひとつもわからないなと思いながらもう何年も何年もきたけれど、最近はますますわからない。わからないなりに自分はどうしたいのだろうかということに向き合ってみても、考えれば考えるほど「わからない」という事実がただただ色濃くなっていくだけで、だから結局そのときそのとき思うようにやってみて、あとはお任せするしかないな、と思うに至る。まあつまりはなるようになる、ということなのだけど。
 わたしは後悔というものが子どもの頃からとても、すごく怖くて、なにかを選ぶとき、決めるとき、あとになって後悔するのではないかと思うと足が竦む。後悔するのが怖いから、決めるのが怖い。でもそれを避けては通れないから、いつも目を閉じてえいっと暗闇に飛び込むようにして、ほとんど祈るような気持ちで物事を決めている。そんな風だから、この間東京の歩き慣れた夜道でふと「これ以外にはあり得なかった」という考えが浮かんできたときにははっとした。人生の分岐点みたいなものがあるとして、その都度自分が選択しなかったもの出来なかったもの見落としてきたもの、そういうさまざまが無数にあり、わたしはそういう自分が取りこぼしてきたであろうものたちへの執着や未練のようなものを長く捨てられずにきた。でもあの瞬間、なにをどう選択しあるいはしなくてもいまここにいるわたし以外にはあり得ようがない、あるべくしてなのかなるべくしてなのか、何がどうしてなのかそれはわからないけれど、でも「これでしかあり得ない」という考えが唐突に胸の中に浮かんできたのだった。

 「いい季節に合わせて移動するのもいいよね」という荒井さんのしなやかさを思い出す。一ヶ月間のインド旅から戻り「あんまり良くなかった、全然写真撮れなかったし」とからりと話すカリナちゃんの軽やかさを思い出す。新しい場所で、東京で、生まれ育った街で、それぞれに模索しながら日々を紡いでいるたくさんのひとたちの顔が浮かぶ。それぞれにたゆたい、そのうちに行き着くであろう未知について思う。そこには期待もなければ悲観もない。どうせぜんぶはあとになってみないとわからないのだし。だけどなにを選んでも選ばなくても結局は、これでしかあり得ない、逃れようのない自分自身を少しずつ積み重ねていくしかない。だからきっとそのうちまたふとした瞬間に後ろを振り返って「これ以外にはあり得なかった」と思うんだろう。そしてそれがもしかしたら、わたしがこれまでくり返し考え書いてきた“自分自身とその生を受け入れる”ということなのかもしれないと、いまは思う。

Vol. 06 / 01 絶えず流動している さまざまな速度で
Vol. 06 / 02 灯
Vol. 06 / 03 これでしか

#, ,

Recent Articles

Yumi Arai 荒井佑実
みちわたるしんたい[8通目]みんなでもひとりでも
Yumi Arai 荒井佑実
みちわたるしんたい[7通目]愛すべき食いしんぼう
Yumi Arai 荒井佑実
More Articles