Vol. 06 / 01 絶えず流動している さまざまな速度で | un / bared
2022.08.26 un / bared

Vol. 06 / 01 絶えず流動している さまざまな速度で

Yumi Arai
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Yumi Arai

Model : 荒井佑実 – アーティスト(https://www.yumiarai.com
Photography : Kalina Leonard – 写真家(https://www.instagram.com/kalinaleonard/
Direction & Text : Nozomi Nobody(https://nozominobody.net

 2年ほど前だろうか、荒井さんに久しぶりに会って少し話をしていたとき、彼女がふいに「これからは風の時代になるから」と言った。
「土の時代から風の時代に変わっていくから、わたしたちみたいなひとたちも生きやすくなっていくと思う」
 ひとところに留まってその土地を耕し作物を育て、そこに根を張り生きる土の暮らしから、姿を変え形を変えながら流動を続ける風の生き方に変わっていくと彼女は言ったのだった。
 数年前奄美にいたころ、占星術に詳しい友達に風とか水とか火とか土とか、自分の性質を教えてもらった記憶があったけれど、それがなんだったのか思い出せなかった。でも荒井さんのその話を聞いたとき、わたしも少しは生きやすくなるのかもしれないと少しの安堵と希望を感じたのを覚えている。

 わたしは同じところにい続けることがあまり得意でない。それはたぶん物理的にも精神的にも。ずっと同じところにいるとだんだん息苦しくなってきて、どこか違う場所に行って体の中の空気を入れ替えないと自分の中のなにかが少しずつ腐敗してダメになっていくような気がしてくる。同じところにずっといるということがわたしはとても怖くもある。自分自身をそこに定め、決めてしまうことが怖い。だから音楽以外の仕事ではひとつの職場に長くいたことがないし、ときどき旅に出掛けると生き返るような心地がする。

 荒井さんもずっとあちこちに、いたひとだと思う。わたしは彼女のこれまでの人生をあまりよくは知らないけれど、そのときどきの場所で作品を作り、発表し、それこそ流れるように生きているというイメージを持っていた。そんな彼女が今年、パートナーと筑波に移住しふたりでお店をはじめた。大きな窓から陽に透け風に揺れる緑がよく見え、高い天井では趣のあるファンがゆったりと回っている。柔らかく深みのあるみどり色に塗られた壁と、歴史を感じさせる家具たち。奥には自然光がたっぷり入る、真っ白いギャラリースペースもある(今回の室内の撮影はそこでさせてもらった)。とても素敵な、ふたりらしい場所だ。
 わたしはこれまで色々な土地に歌いに行き、多くの場所に出逢ってきた。場というものを作り、守り育ててくれているひとたちがいるから、わたしのようないつもどこかにいたりいなかったりするものがふわふわと出掛けて行っても、歌わせてもらったり食事をし酒を飲んだり、誰かと出逢ったり、させてもらえる。その尊さをずっと思ってきたし、ずっと大きな敬意を抱いている。

 荒井さんに、筑波はなにか決め手があったの、と訊くと「いろんなタイミングと縁があって」と言ったあと「でもずっとの場所とはあんまり思ってなくて」と言った。
 「お店が4年の契約だから、いまはこの場所でできることを頑張ってやって、そのあとは好きなところに行ってもいいよね、みたいな感じ。なにがあるかわからないし、もっといいとこがあるかもしれないから、4年経って延長してもいいし、それより前に移動してもいいし」
 そうしてまた水や風の話になって、荒井さんは風でカリナちゃんは水でわたしもどうやら風なのらしく、みんな流れてるから似ている空気を感じる、執着しないっていうか、と荒井さんが言って、わたしは執着しないようにしたい、と言って、そうして荒井さんが「絶対みたいなのってないんだーっていう、そういう体験をいっつもしてきて、でもやっぱり期待したり執着したりしちゃいそうになるけど、でも絶対があるって思いたくない」と言った。

 カリナちゃんはいまは漫画家の友達のアトリエに住んでいて、でも別の友達が同棲していた恋人と別れたから一緒に住むかも、荷物が少ないからいつでもどこでも行こうと思えば行ける、と言い、わたしはいつもどこかに行きたいくせにでも家も大好きで、いま住んでいる部屋にもすっかり家具からなにから揃えてしまいすっかり居心地が良くなってしまっているから、カリナちゃんのその身軽さを少し眩しく思った。

 高校生のとき、短いスカートを履きMDウォークマンのイヤフォンを耳に突っ込んで、学校に向かう満員電車に揺られながら「もしこのまま電車を降りなければもっとずっと遠くまで行けるんだよな」ということをよく考えた。知らない街の知らない駅に降り立つ自分の姿を想像し、それでも目的の駅に着けば黙って電車を降りていく自分を不可思議に思っていた。今でもときどきふと同じことを思う。わたしは、いつだってどこにだって、行けるんだよな、本当は、と思う、そしてこの身体を引き止めているもののことを思う。

 いつだってどこへだって行きたい、でも、心休まるいつでも帰れる場所も欲しい、そういうことをわたしが言うと、荒井さんは「いい季節に合わせて移動するのもいいよね」と言った。その言葉が、自然に合わせて自然に呼吸している彼女らしくてとてもいいなと思った。
 筑波の夜は静かで、定休日の店内に流れる音楽とわたしたちの笑い声だけが暗がりにすっぽり包まれて響いているようだった。わたしは、わたしたちは絶えず流動していて、だから停滞しているように思えるときやひとつの場所にしばらくの間いるときも、それもきっとぜんぶおだやかで大きな流動の一部で、そしてその流動の先にいつか自分の「場所」を見つけるのかもしれないしあるいはずっとずっと流動を続けるのかもしれない、ということをワインで緩んだ頭でぼんやり考えた。

Vol. 06 / 01 絶えず流動している さまざまな速度で
Vol. 06 / 02 灯

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