Vol. 03 / 03 | un / bared
2020.09.24 un / bared

Vol. 03 / 03

Model : Chiyo Hiraoka – Singer Songwriter (https://lineblog.me/lululu_chiyo/)
Photo: Rika Tomomatsu / Text: Nozomi Nobody

 私の血液が流れるスピードで、太陽が東から西に傾くあいだに草木が風になびくリズムと同じように、きっとぴったり落ち着く生活があるはずだと信じているのです。

 一昨年の夏、ともまつは仕事で3ヶ月間スイスに滞在し、帰国後に個展を開いた。あれは確か平日の、お昼を少し過ぎたくらいだっただろうか。フレームに収められた雄大で鮮やかなスイスの景色を眺め、帰りの電車のドアにもたれながら、会場で配られたZINEのページをめくった。「ぴったり落ち着く生活」なんていうものを、わたしはきっと無意識のうちにほとんど諦めていたのだと思う。この一節がやけに胸の奥まで入り込んできて、「信じている」と言い切る彼女の言葉のひたむきな強さにとても勇気づけられたのだった。

 千代ちゃんは最近神奈川の外れに引っ越した。わたしの家は多摩川のすぐそばなのでほとんど神奈川と言ってもいいが、千代ちゃんの新居は静岡寄りなのでうちからはまる2時間かかった。海老名も厚木も超え、名前を聞いたことすらなかった駅で電車を降りた。人もまばらな駅前で少し待つと千代ちゃんが迎えにきてくれ、雨が降り出したので一緒にタクシーに乗って家まで向かった。

 それは昔ながらの小さな平家で、玄関を開けると正面に小さな畳の部屋、右手にキッチンとお風呂場、左手に区切りの襖扉が外されて大きな一部屋になったただっ広い二間があり、奥には鬱蒼と木々が茂る山(森?)に続くなんというか沼のような風情のたっぷりとした庭があった。前の住人がリフォームをしたらしく、床や水回りはとてもきれいだった。車道から少し入った細道の一番奥にあり、虫の声だけが響いているその場所は周囲からすっぽり切り取られ、そこだけがすっかりなにかに守られているようだった。
 「のんちゃんが来るから」と用意しておいてくれた炭を温め、千代ちゃんが育てたじゃがいもとにんじん、買ってきた茄子やオクラ、魚の干物などを焼き、ビールを飲み、ワインを飲み、濁酒を飲んだ。何を話しただろうか。そのうちギターを弾き歌を歌うなどし、更けていく夜とともにすっかり満たされた気持ちで眠りについた。

 千代ちゃんはその場所にとてもよく似合っていた。次の日の朝、自然光のたっぷり入るキッチンでコーヒーを淹れる千代ちゃんの立ち姿はやけにしゅっとしていてとても綺麗で(わたしは思わずそれを口にしてしまったほど)、千代ちゃんがそこにいることはとても自然で正しいことのように思えた。それはきっと千代ちゃんが、自分と同じスピード、同じリズムで時間が流れ、呼吸をしている場所を見つけたからに違いなかった。

 ともまつのZINEはこう続く。

 不思議な縁ではじまったこの旅を通して、何らかの変化の気配を確かに感じることができるだろうという自信があるし、その先もずっと心の動かされる方へ旅を続けるのだろうと思います。

 千代ちゃんはきっとまたこの先住む場所を変えるだろう。だけどきっとその度に、その時の自分にぴったりの場所を見つけるだろう。それはなんて素敵なことだろうか。
 「心の動かされる方へ」
 わたしはともまつの言葉を思い出しながら、少し心細いような、だけどとても静かな前向きな気持ちでのんびりとまた2時間かけて東京へと戻った。

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