Vol.03 / 02 | un / bared
2020.08.06 un / bared

Vol.03 / 02

Chiyo Hiraoka_un/bared
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Model : 平岡千代 – Singer Songwriter (https://lineblog.me/lululu_chiyo/)
Photo: ともまつりか / Text: Nozomi Nobody

 前回「役に立つ」について書いた。記事を公開した少しあと、探検家/作家の角幡唯介さんのインタビュー記事を見かけて読んだ。とある地方紙の取材で「あなたの探検や本は社会の役に立ってないのでは」と言われひどく驚いた、というツイートが話題になったことを受けてのインタビューだった。角幡さんは「探検はシステムに対する批評行動だから世の中に迎合し役に立ってしまった時点でその機能を失くしてしまう」と言っていた。「すべてが役に立つということに回収されるべきではない」「内在を突き詰めてこそ他との関係が生まれそこで初めて役に立つことがあり得るのではないか」とも。
 記事を繰り返し読み、しばらく考えていた。

 千代ちゃんが「役に立ちたい」と言って、わたしはその気持ちがよくわかるような気がしていた。社会という枠組みの中で生活していくことを考えれば、自分が世の中に提供できる何かしらの価値を見出す(あるいは作り出す、もしくは身に着ける)必要があるし、誰かや何かの役に立つことはそのまま自身を肯定することにも繋がるからだ。

 わたしは自分の音楽が世の中の役に立っているとは思っていない。わたしの音楽は、自分の体の中に溜まった様々な感情を外に出したい、形にしたい、そしてその結果出来上がるものを見てみたい、という一方的な願望と期待だけで出来上がっていて、それ以上でも以下でもない、本当にただそれだけのものだ。だからそれを誰かに聴いてほしいと思うことはひどい矛盾だしなんというエゴだろうと常々思っているし、増してそれを以ってして世の中の役に立ちたいとか、聴いたひとに何かを与えたい(勇気づけたい、励ましたい、癒したいその他)なんておこがましくて絶対に言えないのだった。
 そういう意味で、役に立たないものばかりを作り続けているわたしは全く世の中の役に立っていないなと思うことはよくある。
 
 そんなことを考えていたら優生思想が話題になった。そこにあるのは「世の中の役に立たなければ価値がないのか」という大きな問いだった。そんなはずはない。断言する。絶対にない。というか価値なんてどこの誰が決めるのだ、同じ人間という種同士でこいつには価値があるない、と判断し合うなんて馬鹿げてる。心からそう思う。

 そうしてその問いの奥にもうひとつの問いが浮かんだ。

 「役に立たないなんてことが果たしてあり得るのか」

 存在している以上、他と関わらずにはいられない。社会のシステムからしたらとるに足らないと思われる存在でも世界とはなにかしらの接点があり、その点を通じてなにかしらの影響を与えている。それがきっとそのひとの役割だし、「存在の価値」というものがあるとするならそういうもののことなんじゃないだろうか。そして内在を突き詰める、つまり役に立つなんてことの一切を無視して自分を掘り下げ、自己を強めていけば周囲への影響は否が応でも大きくなり、結果役に立つことがあり得るのかもしれない。角幡さんがインタビューで言っていたのはそういうことなんじゃないだろうか。
 世の中の役には全然立っていないわたしの音楽だって、苦しんで苦しんで突き詰めていけば、誰かのなにかになるかもしれない。でもだけど、それは結果であって目的ではないのだよな。

 役に立つことは素晴らしいことだろうと思う、それはたぶん間違いなくそうなんだろうと思う。
 でも別に世の中の役になんて立たなくたっていい。
 もしも役に立っていなかったからといって価値がないなんてことは絶対にない。
 あなたはあなたでいてくれよ。
 わたしはそういうことを大きな声で言いたいなと思った。

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