Vol.03 / 01 | un / bared
2020.07.13 un / bared

Vol.03 / 01

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Model : Chiyo Hiraoka – Singer Songwriter (https://lineblog.me/lululu_chiyo/
Photo: Rika Tomomatsu / Text: Nozomi Nobody

 千代ちゃんとわたしは生年月日が一緒だ。同じ年の同じ日に生まれた。千代ちゃんが前に好きな占い師の占いを送ってきてくれたことがある。生年月日が同じだと大概の運勢は同じなので「あぁあの時期はきつかったよねー」と話して笑ったりした。

 千代ちゃんに会うのはちょうど一年ぶりだった。ウイルスがじわじわ拡がりはじめ、みんなが様子を伺いつつでもまだマスクせずに出歩いていた頃。中目黒のタイ料理屋で待ち合わせた。ヨーロッパに旅に出たり、ヨガのインストラクターの資格を取ったりしていたことはSNSを見て知っていた。お互いの近況や音楽のこと、仕事のこと、これからのことなどを話した。千代ちゃんはよく笑い、シンハービールをすいすい飲んだ。そうして「人の役に立ちたい」と言った。

 「自分を全然わかってないし活かせてないなと思ったんだよね。去年の9月に、飛び込み演奏とかバスキングしたり、向こうの音楽に触れたくて1ヶ月ヨーロッパに行ったんだけど、その資金が足りなくて、でも旅に出ちゃうし単発の体力をつける仕事と思って引っ越し屋のバイトをしてみて、でもまんまと〈こいつ使えないだろうな〉って思われたんだと思うんだけど、現場にひとりだけ行かせてもらえなくてずっと倉庫の掃除とかしてて、〈わたし何やってんだろう、もっと他に自分のやるべきことがあるんじゃないか〉って思って、そしたらなんかぱかーんって開き直って〈路上ライブしよう〉って思って、やってみたら引っ越し屋の賃金と同じ額のチップをその日にもらえて泣いた」

 それからウイルスは瞬く間に世界中に拡がり、あちこちに影響が出始めた。お世話になっているライブハウスも飲食店もセレクトショップも、そしてその場所を築いてきたひとたちも、目に見えて苦しい状況に追い込まれていった。自分に出来ることは一体なんだろうかと日々考え、起こっている出来事の大きさに対する自分の小ささを嫌というほど感じていた。だけどわたしの力がどんなに小さかったとしても、それは決してゼロではないということをはっきりと思った。

 ひとにはそれぞれ役割がある。大きな影響力を持つひとにはそういうひとの役割があるように、わたしにはわたしに役割がある。できないことは数え切れないほどあるが、できることもちゃんとある。自分の肉体や能力を以って「社会」という枠組みに貢献するすべはそれぞれに必ずある。文化施設に対する国からの助成を求める活動に参加したり、大切な場所のためにコンピレーションアルバムを作ったり、目まぐるしく動き回る中でそういうことを思うようになっていた。

 4月、5月はほとんど外に出ずに生活していたので、夕食後の散歩が日課になった。夕方から夜にかけての空の色や風の温度がとても心地よく、わたしは鼻歌を歌いながら延々歩いた。あるときふと「この瞬間をみんなにも分けたいな」と思った。そうしてインスタグラムのストーリーズに短い鼻歌をアップするようになった。誰のためでもなんのためでも別になかった、でも「この時間が楽しみになった」「気持ちが和らいだ」とか、たった15秒の短い動画にいくつも声が届いた。わたしは「あぁこういうことのためだけに自分の人生を使いたい」と思った。

 自分の持っている声や言葉や体、あるいは知識や能力が誰かのなにかになり得る。流動し続ける自分自身が、それでもぴたっとはまる場所がきっとある。

 「役に立ちたいっていうのはどういうこと?」というわたしの問いに、千代ちゃんはこう答えた。
 「今まではずっと音楽が一番大事で、ある意味無理して他を犠牲にしちゃってたけどなんかうまく回って行かなくて。仕事とのバランスもそうだし、本当はどんな風に生きていきたいのかとか色々考えすぎちゃって動けずにいた期間があって。一回自分の存在意義みたいなものがガタガタになったんだけど、その時に悩んだ末に出した答えだったのかな。シンプルに自分をもっと生かして人の役に立ちたいなと思うようになった」

 わたしたちは今年の10月で33歳になる。もう“大人”だ。わたしたちはたぶんもう何年も前からとっくに“大人”だ。でもまだまだ、全然まだまだだなと思う。まだまだもがいている。まだまだまだ、ずっと探している。

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