みちわたるしんたい[3通目]家内あげもの分業制
Illustration & Text : おざわさよこ
のぞみさん、こんにちは。
おばあさまのお返事を読むと、のぞみさんと同じく凛として理知的なお人柄なのだろうなと感じます。わたしの祖母からは相変わらず返事はありません。実家では母が祖母の荷物の整理を始め、こんなもの出てきた!さよこ使わない?とLINEがきます。ひとりの人間の旅が終着駅に向かうさまをゆっくり受け止めるのは初めてのことです。
さて、わたしもカツ丼、もといとんかつ、もといあげものが大好きです。でも長かったひとり暮らしの間には殆ど作りませんでした。割に料理好きを自認していましたが、ワンルームの一口コンロのキッチンではどうもやる気になりませんでした。小さい頃はあげもの作りのお手伝いが大好きだったのに。
我が家はわたしが長女でその下に弟二人の三人姉弟。この人数はあげものお手伝いに最適です。小麦粉をまぶす→卵を絡める→パン粉をまぶす、ひとり暮らし殺しの面倒で場所をとる三段階の工程を、実家の広いテーブルで、三姉弟で和気あいあいと分業制で行うのです。
一番人気は小麦粉まぶしでした。さらさらすべすべの粉に、お肉やたねの冷たさもあいまって手が気持ちいい。そのうえさっとはたいて水で流してしまえばすぐにきれいになるので、後片付けも楽ちんです。卵を絡める工程はじゃぶんとくぐらせて外に出すだけなので、子ども心にもちょっぴり味気ない作業でした。箸をうまく使えないと手づかみになってしまうから、なるべく上の二人が担当していたかもしれません。
パン粉まぶしはくせものでした。大人の今なら上手に卵の水分を避けてパン粉を纏わせることもできますが、小さな子どもにはなかなか難しい。小麦粉と混ざって粘着質になった卵液とパン粉が爪の隙間に入り込みいつの間にか固まって、洗ってもなかなか落ちきらないのでやきもきしたし、その手で色んなところに触るので、母は大変だったでしょう。
役割決めはじゃんけんでしていたのかなあ。時々はそれで喧嘩をしたかもしれない。細かいことは忘れてしまったけれど、三人仲良く並んでめいめい手を汚し机を汚し、作業と会話に夢中だったこと、たくさん笑いあったことを覚えています。わたしはこの分業制のお手伝いが大好きでした。
パートナーのゆーきゃんはのぞみさんと同じく肉を食べないので、今の我が家のあげものはもっぱら旬の野菜や魚の天ぷらか、冷凍のカキフライです。どちらもひとりで簡単にできてしまうので分業はいりません。家飲み的なものも年々減って、誰かとご飯をつくる機会は特別なものになってしまいました。
今年の正月は二年ぶりに実家に帰ろうと思っています。真ん中の弟の子ども二人に、とんかつづくりを持ちかけてみようかな。彼らはわたしたち姉弟の三倍は腕白だから、キッチンが大変なことになるだろうなあ。母もあわせて三世代で料理してみんなで食べる、なんて日が来るのかもと思うと不思議な気持ちです。
のぞみさんは今年の冬はどんなふうに過ごしますか?
みちわたるしんたい[2通目]カツ丼が食べたかった
みちわたるしんたい[4通目]天ぷら家族