Vol.02 / 01 | un / bared
2020.03.31 un / bared

Vol.02 / 01

Model : スズキハルカ – Illustrator / Filmmaker (https://suzukiharuka.com/)
Photo: ともまつりか / Text: Nozomi Nobody

 あたたかくなって、いろんな色の花があちこちに咲いて、桜も咲いて、だけどお花見にも行けないなぁと思っていたら雪。隣の家の屋根がどんどん白くなっていく。しんしん、ときどきひらひら、はらはら。とても静か。今日一日を家の中で過ごせることをまずはありがたく思う。だけどこんなときでも出掛けざるを得ないひとたちがいる。誰かを思いながら今日も玄関のドアを開けるひとたちがいる。みんなそれぞれに事情があって、それぞれの想いがある。

 いろんなことを考える。

 震災のときもそうだったように、何か大きなことが起こると顕著に見えてくるものがある。ずっと日陰にこっそりと置かれていたものが明るみに出され、美しいも醜いもぜんぶが炙り出される。言動に透けて見える本性。本質。タイムラインに飛び交う言葉、言葉、言葉。ぶつかり合い反発し合う様々な“正しさ”。

 自分はどうか?
 何を信じていて、何が大切で、何を守りたいのか。
 改めて自らに問うている。

 ハルカちゃんとの撮影が終わったあと、ともまつと3人でごはんを食べながら“相容れないものとどうしたら分かり合えるのか”ということについて話した。最近ずっと考えていたことだった。自分の信じるもの、理想。だけどそれに反して当たり前に存在する理不尽や不条理。そしてそんなことは気にも留めず通り過ぎて行く無関心の大多数。そういうすべてと歩み寄るにはどうしたらいいのか。あるいはどう折り合いをつけ、付き合っていけばいいのか。

 難しいね、でも一歩踏み込んで目の前のひととこそ話してみることがきっと大切で、そういう小さなことから始めなくちゃ何も変わらないよね、と話してその日は別れた。

 その少しあと、妹のように思っているひと回り歳下の友人と話していたときふいに「のんちゃんは政治の話をよくするけど、どういう世の中になったらいいと思ってるの?」と聞かれた。わたしはゆっくり言葉を噛みしめるようにしながら「選択肢が増えたらいいなと思う。与えられるべき権利が、みんなに当たり前に与えられるようになってほしい」と答えた。彼女は少し考えて「権利はもともとみんな絶対持っているものだと思う」と言った。「政治のことはよくわからない」「興味が持てない」とも。わたしは“権利が与えられていない”と思ういくつかの例を挙げ、様々な角度から彼女に投げかけてみた。わたしの方が歳が上だからといって“わたしの方がわかっている”“知っている”という態度だけは絶対に取りたくなかった。でも、政治と暮らしは繋がっているから絶対に無関係ではいられないのだということは伝えたかった。
 結論からいうとこの件についてわたしたちはわかり合うことが出来なかった。わたしにわたしの思う正しさがあるように、彼女には彼女の思う正しさがあった。そしてそれぞれの思う正しさにおいてわたしたちは全く対等だった。それは当然のことだった。
 平行線のこっち側にいる自分とあっち側にいる彼女。わたしは宿題を持たされたような気持ちだった。

 自分と違う意見を持つ相手を責めたり攻撃したりしたいわけではない。論破してねじ伏せたいわけでもない。
 でも、
 でも?

 そうしてできれば気がつきたくなかった事実に気づいた。

 「わかり合いたい」「歩み寄りたい」と言っておきながらわたしはどうやら「わかってほしい」「歩み寄ってほしい」と思っていたのだった。
 なんという傲慢さだろう。
 自分の思う“正しさ”を振りかざし押し付ける、そういう態度こそが対立や差別を生み、苦しみや窮屈さを生む、そういう例をいくつも見てきたのに。 

 もんもんとする中、原稿がどうにも書けないのでもう一度話したいと相談してハルカちゃんに電話をした。自分の作品に対するリアクションをどう受け止めるかという話をしていたとき、彼女は「そのひとがどうしてそう言ったのかとかどうしてそう思ったのかを想像するのが好き」だと言った。

 想像。

 ずいぶん前にあるアーティストがインタビューで「思いやりって想像力じゃないですか」と言っているのを読んだ。以来、ことあるごとに思い出してはその意味を考え、自分に言い聞かせている大切な言葉だ。

 その話をするとハルカちゃんは「SNSとか見ていて、正しさより優しさとか思いやりが大事だなって最近すごく思ってた。前は正しくあろうと思ってたけど、正しくても優しさがないと意味ないなと思って。それにもしかしたら自分が間違ってるかもしれないし、別の角度から見たら正しくないかもしれないし」と言った。「あと、もし間違えちゃっても直すことが大事。もう一回やり直すというか。それで終わりってならない方がいいなって思って」

 あぁこのひとは自分や他人の不完全さを受け入れているひとだ、と思った。ひととして生きているかぎり完全な正しさなんてあり得ない。その事実をごく自然に受け入れている彼女の姿勢は、そっくりそのまま彼女の持つ優しさに繋がっているのだと思った。

 正しさ。見方を変えればいとも簡単に姿を変えてしまうその頼りない幻想を、だけどわたしたちはときどき誇示し、周りに押し付けようとする。その行為はわたしたちをはっきりと分断する。でも、想像力を働かせ優しさでもってだれかに接するとき、境界線はゆるんで溶け合い、“こっち側”も“あっち側”もなくなる。
 歩み寄るってきっとそういうことだ。

 優しくありたいなぁと、思う。

 溢れかえる言葉に溺れて大事なことを見失いそうになる。でも考えることも本当を探すことも絶対にやめない。大切なものを守るために声をあげ、闘うことも絶対にやめない。改めてそう決意するとともに、優しくありたいと、いまとても強く思っている。

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